我が国におけるでん粉の生産
●我が国におけるでん粉の需要は年間約250万トンありますが、その大部分を輸入したとうもろこしから製造
するコーンスターチでまかなっており、国産原料(ばれいしょ、かんしょ)から製造するでん粉は約16万
トン、自給率は約6%です。
●国産でん粉の生産は、ばれいしょでん粉については北海道、かんしょでん粉については南九州(宮崎県、
鹿児島県)の2つの産地で行われていますが、食料自給率の維持・向上とそれぞれの地域の活性化にとても
重要な役割を担っています。しかしながら、課題もあります。
国産でん粉を生産する上での課題
●国産でん粉を製造するには、輸入とうもろこしを原料としたコーンスターチの2倍程度のコストがかかり
ます。
●これは、でん粉の原料となるばれいしょ・かんしょの国内における生産費用が輸入するとうもろこしの調達
費用に比べ高いことと、でん粉工場が、ばれいしょ・かんしょの収穫期間である3~4ヵ月程度しか稼働
しないために、工場の固定費負担が嵩んでしまうためです。
●国産でん粉を安定して生産・販売するためには、輸入とうもろこしから製造するコーンスターチとの製造・
販売コストの差を埋め、国産でん粉をコーンスターチ並みの価格で販売することを可能にするための支援措置
が必要です。
国産でん粉を生産・販売するために必要なコスト
182,240円/トン(2024年9月13日農林水産省公表)
輸入とうもろこしを原料にしたコーンスターチ等を生産・販売するために必要なコスト
87,030円/トン(2024年9月27日農林水産省公表)
上記のコストの差 約2.1倍
我が国のでん粉産地を守っているでん粉価格調整制度の基本的な仕組みと考え方 |
日本スターチ・糖化工業会の取り組み
●国産でん粉への支援措置を維持するための財源は、100%調整金でまかなわれており、税金は投入されて
いません。
●日本スターチ・糖化工業会に加盟する11社は、この調整金のうち94%を負担しており、その年間負担額は、
最近5か年の平均で約81億円となっています。
北海道の畑輪作の基幹作物であるばれいしょの重要性
●北海道の東部にある十勝地域やオホーツク地域には広大な畑作地域が存在します。
この地域では一戸の農家が30~50ヘクタールの畑を所有し、大規模な畑作農業が行われていますが、
農作物を生産する場合、同じ畑に毎年同じ作物を作付けると、病気や害虫が増加したり、土壌中の栄養成分
が偏ったりするいわゆる連作障害が発生し、作付けする農作物の収量が減少してしまいます。
●このため、通常、農家の方々は、3種類か4種類の作物を順番に作付けする「輪作」を行っていますが、
「ばれいしょ」はこの輪作作物の一つであり、畑作の生産性を安定的に維持していく上でも重要な作物
です。
●ばれいしょは、主な消費用途として、スーパーなどで販売している「生食用」に加え、ポテトチップスや
サラダの原料となる「加工食品用」がありますが、それだけでは、輪作を維持するために必要な面積から
生産される量を消費できないため、でん粉の原料としても利用されています。
●なお、ばれいしょは、生はもちろん乾燥マッシュなどに加工した場合でもあまり保存が効きませんが、
でん粉に精製すれば長期保存が可能となり、有効に活用出来る幅が広がります。
【ばれいしょの栽培概要(青果・加工用含む)】
(北海道 令和5年産)
栽培農家(1) | 栽培面積(2) | 農業産出額(3) (令和4年) |
9,503戸(27%) | 48,500ha (5%) | 543億円(10%) |
資料1:北海道調べ。カッコ内の値は、「農林業センサス2020」の総農家数に占める割合。
資料2:統計部「作物統計」。カッコ内の値は畑面積占める割合。
資料3:統計部「生産農業所得統計」。カッコ内の値は耕種部門に占める割合。
●でん粉原料用は、北海道におけるばれいしょの最大の仕向け先となっており、我が国の重要な食料基地
である北海道における畑輪作体系の維持に欠かせない用途であるととも、輪作の維持による農作物生産の
安定化は、我が国の食料自給率の維持・向上にも貢献しています。
●また、でん粉の生産にはでん粉工場が必要ですが、産地に立地するでん粉工場は、雇用の維持など地域経済
上も重要な役割を果たしており、農村部の就業先が少ないことによる人口の都市集中が進む我が国に
おいて、農村地域の活性化にも貢献しているといえます。
●弊工業会が負担する調整金が、北海道におけるばれいしょでん粉生産を支援することを通じて、我が国の
食料自給率の維持・向上と地域の活性化に不可欠な財源であり、重要な役割を果たしていると考えるのは
こういった理由からです。
●加えて、国産ばれいしょでん粉は、春雨や即席麺などの麺製品やちくわ、魚肉ハムなどの水産練り製品の
原料としても使用されています。国産でん粉を調整金によって支援することで、消費者に安価にでん粉製品
を提供することができています。
ばれいしょでん粉工場の立地(北海道16工場)
他の輪作作物も国の支援の対象
●なお、畑輪作を構成する小麦、てん菜、大豆についても、生産コストを生産物の販売価格だけではまかなえ
ない状況にあることから、それぞれ支援措置が行われていますが、でん粉原料用ばれいしょと違い、税金も
投入されています。
南九州で生産されている「かんしょ」の重要性
●南九州は、台風常襲地域である上に、鹿児島県を中心に分布しているシラス土壌という火山灰土壌でできた
台地の上に畑が開かれています。このシラス土壌は、雨が降っても雨水を保持できず、すぐに台地の外に流
れてしまう上に、土壌養分に乏しいために普通の作物は生産に適していません。
●ところが、かんしょは、台風災害に強い防災作物である上に、土壌養分の少ない水はけの良い畑を好む
ため、南九州では、シラス土壌に適した作物として他に代替のない基幹作物となっています。
●かんしょの主な消費用途には、スーパーなどで販売されている「生食用」やいも焼酎の原料となる
「焼酎用」、いもけんぴやスイートポテトの原料となる「加工食品用」がありますが、それだけでは、
シラス台地で生産されるかんしょの消費をまかなえません。
●このため、かんしょは、でん粉の原料としても利用されており、鹿児島県で生産された「かんしょ」の
約2割が仕向けられていることから、でん粉原料用は、南九州における畑作の維持に欠かせない用途
であるといえます。
●なお、かんしょは、生はもちろんいも粉などの粉にした場合でもあまり保存が効きませんが、でん粉に精製
すれば長期保存が可能となり、有効に活用出来る幅が広がります。
【かんしょの栽培概要(青果・加工用含む)】
(鹿児島県 令和5年産)
栽培農家(1) | 栽培面積(2) | 農業産出額(3) (令和4年) |
6,527戸(24%) | 9,790ha (13%) | 164億円(11%) |
資料1:鹿児島県及び宮崎県調べ。カッコ内の値は、「農林業センサス2020」の総農家数に占める割合。
資料2:統計部「作物統計」。カッコ内の値は、畑面積に占める割合。
資料3:統計部「生産農業所得統計」。カッコ内の値は、耕種部門に占める割合。
●このように、かんしょ栽培によって、生産性の低い南九州の畑地が有効に活用されることは、元々農地が狭い
我が国において、その少ない農地を有効活用する重要な対策となっています。
●また、産地に立地するでん粉工場は、雇用の維持など地域経済上も重要な役割を果たしており、ばれいしょ
でん粉工場と同じく、農村部の就業先が少ないことによる人口の都市集中が進む我が国において、農村地域
の活性化にも貢献しているといえます。
●弊工業会が負担する調整金が、南九州におけるかんしょでん粉生産を支援することを通じて、我が国の食料
自給率の維持・向上と地域の活性化に不可欠な財源であり、重要な役割を果たしていると考えるのはこう
いった理由からです。
●加えて、国産かんしょでん粉は、わらび餅やくず餅の原料として使われていますし、春雨の原料としても使用
されています。国産でん粉を調整金によって支援することで、消費者に安価に和菓子などを提供することが
できています。
〇 かんしょでん粉工場の立地(鹿児島県14工場)
異性化糖でも支援
●日本スターチ・糖化工業会に加盟している各社は、コーンスターチを原料として糖化製品を製造しています
が、このうち、果糖とぶどう糖が混合した液糖である異性化糖は、砂糖についての糖価調整制度に組み込まれ
ております。
●国産砂糖は、鹿児島県の離島地域及び沖縄県の畑地で生産されているさとうきびと、北海道の畑輪作地帯で
生産されているてん菜を原料として製造されますが、これらは、生産コストを生産物(砂糖)の販売価格だけ
では賄えないことから、糖価調整制度による調整金や税金を財源とした支援措置が行われています。
●異性化糖から徴収される調整金は、こうした支援の財源に充てられており、我が国における砂糖需要の確保と
さとうきび・てん菜産地の支援に一役買っています。